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Y君

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1: 09/03/17(Tue) 00:16
小学生の同級生だったY君。
私の家のすぐ近く、歩いて1分もかかならいくらいのところに住んでいた。
色が白くて、背が小さくて、いかにもお金持ちそうなコで、
その辺のところは同級生たちからはあまりよく思われず、
変なあだ名をつけられたりしていた。
2: 09/03/17(Tue) 00:17
僕は彼とはあまり仲がよくも悪くもなかったが、
あまり仲良くなれるタイプではなかった。
彼はあきらかにお金持ちの家に暮らしていて、
くだらないマンガやテレビの話題には乗ってこず、
塾にも行っていたし、放課後に野球をすることもほとんどなかった。
3: 09/03/17(Tue) 00:20
彼はちょっと代わった名前で、その名前を音読みしたあだ名で呼ばれていた。
あまり好意的な呼び方ではなかった。
彼だって、自分が皆にどう思われているかはわかっていたはずだ。

中学生になっても同じ学校だったが、
彼とはすっかり疎遠になって、その後どういう道を歩んだかは知らない。

でも、彼は勉強がよくできたし、いろんな塾にも通っていたから、
きっといい大学を出て一流企業に就職したのだろうと思っていた。

名前が珍しいので、もしかしたら検索したら引っかかるかなと、やってみた。
4: 09/03/17(Tue) 00:30
ある人物がリストアップされた。
名前はY君と全く同じである。
しかし、彼がやりそうな仕事ではなかったので、これは同姓同名だな、と
無視していた。

それから数年。
また検索してみると、やっぱりその男がひっかかる。
念のために、画像検索をしてみると、色白な子供のような、
サングラスをかけてひげを生やした長髪の男の顔がでてきた。

・・・・これは、Y君だ!
間違いない!!!

私は彼はきっと固い仕事に進むのだろう、
弁護士とか、医者とか、公務員とか、そういう仕事につくのだろうと思っていた。

しかし、彼の進んだ道は、おおきなくくりで言えば、芸術家の道であった。

彼が、小学生の頃に作文とか、詩とか、絵とかを描いて、
大人びたものを書いていたのは憶えている。
だが、それはあまりに技巧的で、子供らしい無邪気さや破天荒さや
いい意味での支離滅裂で後先考えない感じがなくて、
私はあまりいい印象を受けなかった。

同級生たちも、彼の作品に対して、ほめたり驚いたりすることもなかった。
なんてったって、彼は嫌われていたから。

背が小さくて、運動も得意ではなく、
当時流行っていたドッジボールでは、サイドスローだった。
5: 09/03/17(Tue) 00:32
ドッジボール。
この遊びを知っている人がどれくらいいるのだろうか。
非常に単純で野蛮と言ってもいいスポーツである。
長方形を半分にわけたコートにチームが分かれ、
ハンドボールで使うようなボールをお互いの敵にぶつける。

コート内にいる内野と外にいる外野にわかれ、
ぶつけられたら外野になり、外野は内野にいる選手にボールをぶつければ
内野に戻れる。
そして、内野の選手が一人もいなくなったら、試合終了となる。
6: 09/03/17(Tue) 00:35
ゆでたまご、という作戦がある。
外野の選手がボールを持つと、当然敵の選手達はその外野から離れる。
遠いと当てにくいから、外野の選手は離れた敵がいるほうへボールを山なりに投げる。
敵はまたボールが渡った選手から離れる。
それを繰り返すことにより、敵を疲れさせ、逃げ損ねたところを当てるという、
セコい作戦である。
7: 09/03/17(Tue) 00:36
話がそれたが、
Y君はドッジボールは得意ではなかった。
でも、なんだか気が強くて、プライドが高くて、
何かにつけ技巧に凝って、ますますみんなに嫌われた。
8: 09/03/17(Tue) 00:39
しかしいまや、彼は知る人ぞ知るアーティストとなった。
多分。
ある会社の役員を勤めている。
カネも持っているだろう。
でも、負け惜しみではないのだが、
私は彼をまったくうらやましいと思わない。

小学生のときにドッジボールで鼻をふくらませて横投げしていたのと同じような
あわれみさえ感じるのである。
9: 09/03/17(Tue) 00:44
そして彼は、小学生の頃にからかい半分でよばれていたあだ名を名乗っている。
それは彼なりのプライドや反骨精神から来たものなのであろう。

しかし、長髪、サングラス、ヒゲという、自分を隠す意図がありありと見え、
それでも隠し切れない彼の白さ、カゲロウのようなはかなさ、小ささ、
それはドッジボールの投げ方、作文、絵、すべてに表れていたものだった。

彼が生業としているものは、あるサブカルチャーである。
彼は相当傷付いたのだ。
私も彼を傷つけた一人だ。

そして彼は、彼と同じように傷つけられた人が求める慰安を提供する仕事に就いたのである。
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